実践的な知識と、現場に即した技術を身に付けた ホームドクターのように頼ることができる整備士であれ。 JAMCA、全国自動車大学校・整備専門学校協会には その方針に呼応する数多くの若者が集まってきている。
左より、中央自動車大学校1級自動車整備科/佐々木政和(1987年生まれ)、東京自動車大学校1級コース/西山慧(1983年生まれ)、
関東工業自動車大学校2級自動車整備科/坂元亮太(1989年生まれ)
三者三様なのだが、共通している部分もある。一級自動車整備士の資格取得を目指し、JAMCA会員校で学ぶ学生のことだ。資格取得の動機はそれぞれで、卒業後に就く職業のイメージも「整備士」に凝り固まっているわけではない。どの学生にも共通するのは、「個性豊か」な点。なぜ一級自動車整備士を目指すのか、についてたずねると、言葉を尽くして熱く語ってくれる。考えや行動に自信がある証拠だろう。
「学校はアットホームな雰囲気。先生もフレンドリーで毎日が楽しい」と話すのは、佐々木政和さん。60年代のアメ車が好きだという佐々木さんが一級自動車整備士を目指そうと決意したのは、「街を走っているクルマのほとんどが電子制御で動いている」から。
「現実問題として、整備の仕事に就こうとすれば、『電気』の知識と技術は不可欠」と付け加えた。基礎的な知識と技術だけでは、仕事の幅を狭くしてしまう。ならば、最新の知識と技術を奥深くまで身につけて社会に出た方が得策と判断したわけだ。その方が即戦力として役立ち、仕事の幅も広がるからである。
「二級の課程を2年間やれば、電気の基礎知識は身につけることができます。でも、一級の勉強を4年間すれば、ECUから故障データを読み取ったり、センサー系の回路の電圧を測って故障箇所を探し出したりする実習ができる。実際にお客様と応対したときにどうすればいいかまで学べるのが一級。そこまでやっておけば、ひとりで一通りのことをできるようになりますからね」。
ところが、そこにたどり着くまでの道は平坦ではなかった。3年生になって教科書を開いたとき、佐々木さんはレベルの違いに愕然とするのである。だが、それこそが学校側の狙い。「二級の資格は運転免許証と同じ。『整備の仕事に就いていい』というだけであって、技術が高いことの証明ではない」と関係者は語る。
「自分の脳みそのキャパを完全にオーバーしていましたが、身についてくると楽しくなってくるもので、最終的には小中高で取れなかったような点数が取れるようになりました」と佐々木さんは笑う。「大学に行った友だちから、『就活で40社落ちた』という話を聞くと、自分と違って、やることが決まっていない証拠だなと感じますね」。
佐々木さんがたどった道に踏み込もうとしているのは、3年生の西山慧さんだ。電気系の内容がどんどん深く、詳しくなっていくのは、まさに願ったり叶ったりだという。西山さんは専門学校卒業後に社会人生活を送った経験を持つ。
「バイクショップに就職したのですが、入社9ヵ月で同期と一緒に工場を任されることになりました」。大抜擢なはずだが、定期点検しか経験のなかった西山さんに重整備は重荷で、悲しいほどに「何も知らない自分」を思い知る。
「入学するときは23歳だったのですが、とにかく電子制御に関する知識を上げたいと、迷わず4年制の一級コースを選択しました。故障診断など、『あのとき、ここが分かっていれば対処できたのに』と思うようなことばかりです」。
3年間の社会人生活で接客を経験している西山さんでさえ、学校の実習は「有意義」だと感心する。「ウチの学校には『今日の店長』というのがあって、先生をお客様と想定し、応対の練習をします。型どおりではなく、自分で考え、言葉にしなければなりません。僕は経験があるので100点取って当たり前だと思っていたのですが、いざやってみると、なかなかできない。これには打ちのめされました」。
クルマの構造を覚えることに力点を置く二級コースと違って、より実践的な技術と知識を身につけさせるのが、一級自動車整備士を養成する教育課程の目的だ。
「エンジンの実習に関しても、二級では構造を理解するのに精一杯で、時間を意識することはありませんでした。一級では、エンジンを降ろし、分解するまでの作業計画を自分で考えることから始まります。効率、つまり時間を意識することが大事。効率良くやればお客様も喜ぶし、収益にも結びつくからです」。
坂元亮太さんは一級4年制課程の2年生からの参加である。一級4年制課程へ入学した理由は、「4年間学ぶことにより人としての幅を広げ、職業選択の幅を広げたい」からだ。
「4年間かけて自動車の知識はもちろん、人間性教育の中から豊かな教養を身につけていけることで、色々な仕事にチャレンジできる素養を身につけられる。さらに、学校という枠を飛び出して、色々な企業での2ヶ月にわたるインターンシップを経て様々な経験から自分を成長させることもできる。一級自動車整備科で学びたいと思った理由はそこでした」。
彼は「高校での進路選択時にクラスで大学に進学しなかったのは自分ひとり」だったにもかかわらず、「クルマが好き。そのクルマに近いのが整備士の仕事」だと自動車大学校の門を叩いた。実際に学ぶと、自動車大学校とは単に「整備士の資格取得を目指すだけの場でないことに気づく。整備士に限らず、職種の間口を広げて模索中です」と坂元さんは語る。
通う学校は異なれど、しっかりとした自分を持っていることは共通。いや、学校に通ううちに見つかったと言うべきか。
実に頼もしい青年たち、である。
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