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「まず自分でやる。
   それを覚えたのは学校だった」

整備の現場で求められる技術を身に付ける。実践的な技術を習得し、接客のノウハウを知る…。 全国自動車大学校・整備専門学校協会の卒業生はいま、それぞれの職場で切磋琢磨の日々を送っている。

写真(柴崎博)

柴﨑 博/関東工業自動車大学校卒業生。現在、埼玉トヨタ自動車・行田店に勤務

埼玉トヨタ自動車・行田店に勤務する柴﨑博さんは、入社2年目である。4年目の先輩と10年以上のキャリアを積んだ先輩の背中を見て、仕事を身につけているところだ。点検と一般整備が主な仕事だが、「入社してすぐにステアリグギヤボック スの脱着をやらせてもらえたので、びっくりしました」と1年前の出来事を振り返る。
職場は戦場。「忙しいのでチームワークが大事」だと柴﨑さんが指摘するとおり、仕事を分担しなければ、次から次に舞い込んでくる多種多様な依頼を効率良くこなすことはできない。能力のある者だけが仕事を抱え込んだり、完全な分業制にしたりしては、効率が悪く、お客様を待たせてしまうことになる。
「戦力になる」と見込んだからこそ、入社したての若者に、大がかりな整備が任されることになったのだろう。柴﨑さんはその期待に応え、与えられた業務を着々とこなしていった。
「お客様からお金をいただくわけですし、それが給料になる。学生時代は勉強させてもらっていた立場だったので、入社当初は立場の違いに戸惑ったこともありました。でも、今ではそれがいいプレッシャーになっています」
学ぶだけの生活から、学んだことを生かす生活へ。経験も技術もある先輩の仕事ぶりと我が身を比較し、「自分でいいのか」という思いが戸惑いにつながったりはしたが、少しでも早く先輩に追いつくことを目標に、仕事に打ち込んでいる。
その柴﨑さんの仕事の進め方は、「まず自分でやってみる」ことだ。初めて経験する作業内容であっても、「これ、どうすればいいんですか」といきなり教えを請うたりはしない。4年間の学生生活で身につけた知識と技術を最大限活用し、まずは自分なりの考えに従って手を動かす。
「現場に出てわかったのは、外れないボルトや見えないねじ、ナットがあることです。学校の授業では外しやすくなっているボルト類も、現場ではさまざま。そのボルト類を自分なりに考えて取り外した後で、先輩に聞くんです。『先輩だったら、どうやって外すんですか』と。すると先輩は自分のやり方を説明してくれます。経験を積んでいるだけあって賢いやり方を知っている。ああ、そうなのかと学ぶことが多いですね」
バイク好きだった柴﨑さんは、高校で進路を考える段になって、自動車整備士になる道を選んだ。周囲には「大学に行くのが当たり前」というムードが漂っていたが、大学を卒業しても道が定まらない例を間近に見たこともあり、「自分の好きな道、興味のある道に進み、手に職を付けた方がいい」と考えたのだ。手に付けた職を生かすなら、2輪ではなく4輪の方が受け皿は大きいだろうと、業界の状況を冷静に分析した。
思い描いたとおり、柴﨑さんは自動車整備士の資格を取得することになるが、途中で軌道修正があった。当初選択したのは2年で学ぶ二級自動車整備科コース。その2年目を迎えたときに、「二級の上に一級自動車整備士を目指すコースがあった。やるなら徹底的にやってやろう」という気持ちに変わったのである。
結果的に「正解だった」と柴﨑さんは振り返る。まずは自分の力を試し、その後で他人の考えを聞いて、後の参考にする。そのやり方を身につけたのは、一級自動車整備科コースでのことだった。誰に教わるでもなく自然と、社会人になった今でもそれを実践している。苦手意識のあった電気に関しては、課外活動で率先して電動カートのモーターを担当することで克服した。
だから、どんな整備でも平気である。むしろ、未体験の整備を待ち望む姿勢が柴﨑さんにはある。「毎日勉強。この先もずっと勉強」だと、意欲満々だ。埼玉トヨタ自動車・行田店は、一部トラックの整備も受け持つ。まだトラックの整備をひとりで任されるまでには至っていないが、「先輩の手が空いているときは、作業を見せてもらってトラブルシューティングの手順を覚えているところです」と、着実に仕事の幅を広げつつある。
乗用車に関しては、コンパクトカーからセダン、ミニバン、SUVまで、幅広い車種を相手にしなければならない。しかも、現行車種だけでなく、2代、3代前の車種も不具合を抱えてやって来る。
「ずっとパワーウィンドウばかり扱っていたのですが、この間はレギュレーター式のウィンドウを初めて見ました。へぇ、こうなっているのかと、またひとつ勉強になりました」
一級自動車整備士の仕事は手を動かすだけではない。何のためにどう手を動かしたのか、お客様に説明できて初めて一人前だ。
「人に説明するは意外と難しいのですが、授業で経験済みだったので、戸惑うことなく接することができました。ただ、最初はざっくりとした説明しかできませんでした。もっと話を盛り上げたい。どうすればいいのか悩んだ時期もありましたが、営業担当者の意見を参考に世間話を取り入れてみたら、心を開いて話してくれるようになりました」
ときには、自分が手を動かして点検をし、整備をしたクルマをお客様の元に届けることがある。「ありがとうと言ってくださると、うれしくなります」
そう語る柴﨑さんは、技術面では先輩の背中を追い掛け、お客様とのコミュニケーション面では営業担当者の声に耳を傾け、エンジニアとしての質に磨きを掛けている。 


ahead表紙イメージ

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aheadとは、カー&モーターサイクルマガジンをテーマにした、発行部数70,000部を超える月刊のフリーペーパーです。



月刊フリーマガジン「ahead」に4回にわたり自動車整備し関連のインタビュー記事が掲載

記事掲載内容

7月号
JAMCA会長インタビュー
8月号
夢と希望にあふれる一級自動車整備科学生インタビュー
9月号
JAMCA会員校一級取得者の現状インタビュー
10月号
求めるのは、広い視野と主体性を持った人材

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